@article{oai:kunion.repo.nii.ac.jp:00002207, author = {筒井, 紀貴 and Tsutsui, Noritaka}, journal = {音楽研究 : 大学院研究年報, Ongaku Kenkyu : Journal of Graduate School, Kunitachi College of Music}, month = {Mar}, note = {近年再評価が進みつつあるヴィクトル・ウルマン(1898-1944)の様式については、新ウィーン楽派との関係や、1930年代以降にそれまでの表現主義的な無調から調性との接点を持つ独自の和声へと転換したことは明らかにされているが、その内容についてはまだまとまった研究がなされていない。ウルマンの作品群の中でも歌曲は主要な位置を占めるが、本稿では、1939年から1940年にかけて書かれた《宗教的な歌曲》op.20のうち、ウルマンによる音組織が顕著に観察できる〈マリアの歌 Marienlied〉を例に分析を行った。その際、A.シェーンベルク(1874-1951)の『和声学 Harmonielehre』との関係に焦点を絞りながら、ウルマンが1930年代に到達した独自様式がいかにしてもたらされたのかについて考察を行った。 1911年に初版が出版され、ウルマンも影響を受けたとされるシェーンベルクの『和声学』には、いわゆる「自由な無調」期に著者が志向し、1930年代になって再び目が向けられることになる汎調性的な理念が反映されている。ここでシェーンベルクは協和音と不協和音という伝統的な区分に疑義を呈し、これまで不協和音としか見られてこなかった和音に独立した価値を与えようとするが、それは後に「不協和音の解放 Emanzipation der Dissonanz」と称された概念と結びつけられてゆくことになる。伝統的な和声学において不協和音として見なされてきた和音が一連の倍音中のより遠い協和音に過ぎず、両者の「理解しやすさ Fasslichkeit」は同じであるとするこの概念は、協和音と不協和音の区別が人間の美学的原理の結果として生じるという点で、H.v.ヘルムホルツ(1821-1894)の『音感覚論』による生理学的観点からの主張と軌を一にしている。この概念に従えば、四度和音や全音音階和音といったそれまで不協和と見なされてきた和音は、協和音と同じ価値基準の下に「解放」される。 ウルマンの〈マリアの歌〉においてもこれら四度和音や全音音階和音の使用が認められるが、より顕著に観察できるのは、任意の基音による一連の倍音のうち、第8-14倍音を背景とした響きである。ウルマンがシェーンベルクの汎調性的理念の基礎の上に立っていることは自身の論考などからも明確に読み取れるが、ウルマンの第8-14倍音による音組織は、これまで不協和音として見なされてきた音響が協和音として受容されるという意味において、シェーンベルクと同一の方向性を有している。この点で、ウルマンの和声は調性との接点を持つというよりもむしろ、倍音列という共通の原理に基づいて調性と無調の響きを同じ価値基準の下に解釈することで、その境界を超越していこうとするものであると言える。その根底に存在するのはより包括的な概念によって調性の枠組みを乗り越えようとするシェーンベルクの汎調性的な理念であり、このことから、ウルマン自身が自らの様式を形容した「ロマン派的和声法と無調の和声法の隔たりを埋める」という表現の意図が理解されるのである。ウルマンが到達した様式は調性への回帰ではなく、この汎調性的理念を礎とした新たな試みであった。}, pages = {107--123}, title = {「不協和音の解放」とヴィクトル・ウルマン}, volume = {32}, year = {2020}, yomi = {ツツイ, ノリタカ} }