@article{oai:kunion.repo.nii.ac.jp:00002127, author = {白石, 美雪 and Shiraishi, Miyuki}, journal = {音楽研究 : 大学院研究年報, Ongaku Kenkyu : Journal of Graduate School, Kunitachi College of Music}, month = {Mar}, note = {本論文は「近代日本最初の音楽評論家」と位置づけられる大田黒元雄の批評のあり方を検証するため、彼の主著で、1917(大正6)年の初版から1952(昭和27)年の音楽文庫版まで、35年にわたって版を重ねた『音楽夜話』について、15冊の調査により、書誌の変遷、内容の変遷、受容の変遷を分析した。そこから本の構成そのものが大きく変化したのは1925年の第一書房初版、1939年の第一書房戦時体制版への改訂の2回で、前者は『音楽夜話』と『続音楽夜話』を合本、後者は章の増減を含めて約3倍の内容となったことがわかった。第一書房戦時体制版ではそれまで2000部程度だった発行部数が一気に20000部となり、読者の想定が都市部の上流階級および新中間層から、全国の新中間層へと広がったと考えられる。 『洋楽夜話』は一貫して体験談や逸話を多く用いて読者の興味を惹き、思いつくままに語っていくという夜話のスタイルで、専門的な知識の入り口を示すにとどまった。作曲家や演奏家、作品やジャンル等に関する説明は、作曲家別、演奏家別、作品別、ジャンル別に並べられ、カタログ化されている。また、西洋音楽中心の音楽観が大田黒の変わらない基盤であることも確認できたが、国歌の章で見た通り、時勢に応じてニュアンスが微妙に変化した部分もある。戦争を扱った章も版による書き換えが大きかった。 さらに新聞や雑誌の記事から『洋楽夜話』の受容を調査したところ、他の音楽書と比べて専門性は乏しいが、平易で楽しい読物であり、博識からくる知識を散りばめながら、初心者が音楽に関する歴史と概念を自然に把握できるように作られた啓蒙書という世評が読み取れた。 このように大田黒が『音楽夜話』で形成したのは、「興味と実益と平易の三要素」を兼ね備えた音楽評論だった。西洋音楽中心の音楽観に基づき、西洋音楽を日本に広めることを目的として、大田黒は専門知識の正確な伝達よりも読者の興味を喚起することに意を凝らした。わかりやすいテーマを扱い、音楽に対する好悪を明確に示しながら飽きることなく読ませる文体で、読者が憧れの音楽を身近なものとして感じられる工夫をした。すなわち、学者や教育者が上から知識を教えるスタイルではなく、読者と楽しく会話する中に知識を散りばめるスタイルで、西洋音楽を読者の精神と生活に直接、関わるものとして描いたのである。 したがって「近代日本最初の音楽評論家」とは、広範な西洋音楽に関する知識と、好悪で示された明確な評価基準をもち、興味をそそるテーマと読みやすい文体で音楽の初心者を含む幅広い読者の共感を引き出すことのできた最初の執筆者ということになる。そして、現在ほど気軽に西洋音楽を聴く機会に恵まれなかった大正前期から戦後復興期にいたるまで、大田黒をはじめとする音楽評論家の書いた本で想像し、理解しようとすることそのものが、日本の西洋音楽受容の重要な一場面だったと思われる。}, pages = {19--34}, title = {『洋楽夜話』にみる大田黒元雄の音楽批評 : その特徴と変遷}, volume = {31}, year = {2019}, yomi = {シライシ, ミユキ} }